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2026.10.06 【症例紹介】11歳6か月イタリアングレーハウンドの前足のしこり摘出手術|痛がらないまま大きくなった腫瘤への対応

皮膚の下のしこりに気づいても、痛がらず食欲も元気もいつもどおりだと、しばらく様子を見ようと思われる飼い主様は少なくありません。

しかし、しこりは見た目や触れた感じだけで良性か悪性かを見分けることが難しく、大きさの変化が判断の手がかりになります。

今回は、徐々に大きくなった右の前足の腫瘤(しゅりゅう)を、外科手術で切除した11歳6か月のイタリアングレーハウンド症例をご紹介します。

■目次
1.症例情報(概要)
2.ご相談内容とご来院時の状態
3.検査結果と治療方針
4.処置の流れ
5.術後の様子と経過
6.犬の体にできるしこりについて
7.まとめ|しこりに気づいたら早めのご相談を

症例情報(概要)

・種類:犬(イタリアングレーハウンド)
・年齢:11歳6か月
・性別:去勢オス
・体重:9.1kg
・主訴:右前足のしこりが3か月ほどかけて徐々に大きくなってきた
・診断:血管外膜細胞腫(悪性)
・治療内容:マージンを確保した腫瘤の外科切除
・現在の経過:術後半年の時点で再発は見られず、定期的に経過を観察中

ご相談内容とご来院時の状態

「3か月ほど前から右の前足にしこりがあり、だんだん大きくなってきた」とのことでご来院されました。
飼い主様のお話では、しこりを気にして舐めたり、触られて痛がったりする様子は見られないとのことでした。

診察では、右前足の手首の裏側あたりに皮膚の下のふくらみ(腫瘤)が確認できました。腫瘤とは、皮膚や皮下組織などにできる「しこり」や「できもの」を指す言葉で、良性・悪性のどちらの場合にも使われます。

また、痛みがないことは「そのしこりに問題がない」と判断できる根拠にはなりません。むしろ、時間とともに大きくなっているかどうかが、検査を進めるかを考えるうえで大切な情報になります。

検査結果と治療方針

はじめに針吸引検査を行いました。細い針をしこりに刺して細胞を採取し、顕微鏡で性状を確認する検査です。

その結果、腫瘍細胞が認められました。徐々に大きくなってきた経過とあわせて、外科手術で切除する方針としました。

<治療方針>

・術前検査で肺への転移の有無や全身状態を確認する
・マージンを確保して腫瘤を摘出する
・病理検査で腫瘍の性状を確かめる
・術後の傷と再発を定期的にチェックする

処置の流れ

11歳を超える高齢の犬のため、全身麻酔による体への負担に配慮し、事前に全身状態を十分確認したうえで手術に臨みました。

① 術前検査と麻酔の準備
血液検査や画像検査の結果をもとに、麻酔をかけられる状態かどうかを確認しました。

② マージンを確保した切除
腫瘍が疑われるしこりは、輪郭ぎりぎりで切除すると腫瘍細胞が残ることがあります。そのため、周囲の正常にみえる部分も含めて切除する「マージン」をとって切除範囲を決めました。

③ 皮膚の縫合
切除したあと、残った皮膚を寄せて縫合しています。

しこりのあった手首の裏側は皮膚に余裕がなく、マージンを確保すると縫合部に張力がかかり、うまくつかない可能性がありました。その見通しを手術前に飼い主様へお伝えし、ご理解をいただいたうえで実施しています。

なお今回は前足の皮膚と皮下の組織にできた腫瘤の切除であり、骨や関節を扱う整形外科の手術とは異なります。

▼シニア期の麻酔についてはこちらで詳しく解説しています

術後の様子と経過

術後は、縫合した皮膚の一部の離開(傷口が開くこと)がありました。これは、手術前に飼い主様へ可能性をご説明していた術後合併症のひとつです。その後は傷の処置を続けながら、抜糸を終えました。また、再縫合や皮膚移植といった追加の処置には至っていません。

切除した腫瘤の病理検査の診断は、血管の周りにできる悪性腫瘍の血管外膜細胞腫(けっかんがいまくさいぼうしゅ)でした。
本症例では、検査上は「取り切れている」と判断されましたが、この種の腫瘍は再発することがあり、時には転移も考えられます。
そのため術後も定期的にご来院いただき経過の確認を行います。術後半年の時点で、再発は見られていません。

犬の体にできるしこりについて

愛犬の体にしこりを見つけたときは、大きさや形の変化にも注意して観察することが大切です。

犬が痛がったり気にしたりする様子がなくても、見た目や触った感触だけで良性・悪性を判断することはできません。
しこりが数週間から数か月のうちに大きくなっている場合は、早めに検査を検討しましょう。

特に、今回のように手首の周りや足先など皮膚に余裕の少ない場所では、小さいうちのほうが切除の選択肢を取りやすくなります。

▼犬のしこり切除の症例はこちらでも解説しています

まとめ|しこりに気づいたら早めのご相談を

今回は、痛がる様子のないまま3か月かけて大きくなった前足の腫瘤を切除した症例をご紹介しました。病理検査で悪性の血管外膜細胞腫の診断が下り、現在も再発や転移がないかを定期的に確認しています。

しこりは、気づいてすぐに慌てて処置しなければならないものとは限りません。ただし、大きさが変わってきているのであれば、一度調べておく意味があります。

当院では、愛犬の状態や検査結果、考えられる治療方法、それぞれのメリットや注意点について飼い主様にわかりやすくご説明し、十分なコミュニケーションを取りながら、一緒に治療方針を考えることを大切にしています。気になるふくらみを見つけた場合は、かず動物病院までお気軽にご相談ください。

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