2025.07.04 【症例紹介】12歳ミックス猫の摘便処置|その便秘、実は「巨大結腸症」かも?
トイレにこもっても排便できず、苦しそうに吐いてしまう――そんな明らかな「便秘」の症状でも「そのうち出るだろう」と様子を見てしまう方は少なくありません。
しかし、高齢の猫が便秘を繰り返している場合、その背景に「巨大結腸症」という病気が隠れていることがあります。この状態になると、腸が便を送り出せなくなり、自然な排便がますます難しくなってしまいます。
今回は、便秘を何度も繰り返していた12歳の猫が、入院による処置を経て回復した症例をご紹介します。
■目次
1.症例情報(概要)
2.ご相談内容とご来院時の状態
3.検査結果と治療方針
4.処置の流れ
5.術後の様子と経過
6.巨大結腸症とは?繰り返す便秘の背景にある病気
7.まとめ
症例情報(概要)
・種類:猫(ミックス)
・年齢: 12歳
・性別: 去勢オス
・体重: 4.8kg
・主訴: 排便しようとするが出ず、嘔吐も見られる
・病名: 巨大結腸症
・処置内容: 点滴・浣腸・用手摘便処置
・術後経過: 排便の改善/経過良好
ご相談内容とご来院時の状態
飼い主様からのご相談は「トイレにこもって排便しようとするが出ない」「吐いている」というものでした。猫には軽度の脱水が見られたものの、食欲は保たれており、ぐったりした様子はありませんでした。
検査結果と治療方針
レントゲン検査と超音波検査により、大腸内に大量の便がたまっている状態が確認されました。触診でも腸内の便が非常に硬くなっていることが分かり、飼い主様からのお話では、4〜5年前から便秘を繰り返していたことが明らかになりました。
また、検査の結果、血液検査・画像検査ともに便秘の原因となる明らかな疾患(腫瘍や神経疾患、代謝異常など)は認められなかったことから、慢性的な便の貯留によって腸が拡張し、うまく動かせなくなる「巨大結腸症」と診断しました。
<治療方針>
・脱水補正を目的とした点滴治療
・便の排出を促すための浣腸処置
・必要に応じた用手による摘便処置
処置の流れ
脱水の補正と排便を促すことを目的に、以下の手順で処置を進めました。
①点滴処置
軽度の脱水が見られたため、まずは体内の水分バランスを整える点滴治療を実施しました。これは腸の動きを助け、便の排出を促すためにも重要なステップです。
②浣腸処置
点滴を行いながら、肛門からの浣腸により便の排出を試みました。
③入院下での継続処置
しかし、便が非常に硬く詰まっていたため、1回の処置では排便が難しく、入院による継続的な治療が必要と判断しました。入院中も引き続き点滴と浣腸を繰り返しました。
④用手摘便
浣腸だけではすべての便を排出できなかったため、獣医師が指を使って便を丁寧に崩しながら取り除く「用手摘便(ようしゅてきべん)」を併用しました。
術後の様子と経過
数日間の処置を経て、腸内の便は無事に排出され、退院となりました。
その後は、再発予防のために便秘管理用の処方食と、便をやわらかく保つための内服薬による継続的なケアを行っていただいています。現在も定期的に健診を受けながら、良い状態を保てており、経過は順調です。
巨大結腸症とは?|繰り返す便秘の背景にある病気
「巨大結腸症(きょだいけっちょうしょう)」とは、便が長期間にわたってたまり続けることで、腸が広がってうまく動かなくなってしまう状態です。特に高齢の猫では、長引く便秘がこの病気につながることがあります。
腸の動きが悪くなると、自然な排便がますます難しくなり、便がどんどん硬くなる悪循環に陥ってしまいます。進行すると、自力では排便できなくなり、浣腸や摘便といった医療的な処置が必要になることもあります。
この病気は一度発症すると慢性化しやすいため、便秘を繰り返す場合は、早めに動物病院での診察を受けることが大切です。
まとめ
便秘は「そのうち出るだろう」と様子を見てしまいがちですが、特に高齢の猫では、繰り返すうちに巨大結腸症へ進行するおそれがあります。放っておくと自然な排便が難しくなり、つらい処置が必要になることもあるため、早めの対応が大切です。
排便トラブルは、猫の生活の質にも大きく影響します。かず動物病院では、その子の体調や生活に合わせたケアをご提案しています。便秘かな?と思ったら、どうぞお早めにご相談ください。
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