2025.06.12 【症例紹介】14歳8カ月トイプードルの下顎骨部分切除|悪性黒色腫(メラノーマ)と診断された症例
口腔内に小さな「できもの」が見つかったとき、飼い主様の多くは「歯肉炎かな?」「歯石が原因かも」と思われるかもしれません。しかし、見た目が似ていても中には悪性腫瘍が潜んでいることもあります。
今回は、下顎の前歯部分にできた小さな塊をきっかけに、悪性黒色腫(メラノーマ)と診断されたトイプードルの症例をご紹介します。
■目次
1.症例情報(概要)
2.ご相談内容とご来院時の状態
3.検査結果と治療方針
4.処置の流れ
5.術後の様子と経過
6.見逃されやすい口腔内腫瘍|「異変に気づくこと」が第一歩
7.まとめ|高齢でも安心して処置を受けられるように
症例情報(概要)
・種類:犬(トイプードル)
・年齢:14歳8か月
・性別:避妊メス
・体重:4.3kg
・主訴:下顎前歯の歯茎に塊がある
・病名: 悪性黒色腫(メラノーマ)
・処置内容:全身麻酔下での歯石除去・下顎骨部分切除
・術後経過:翌日から元気・食欲あり/経過良好(1年後に肺転移を認め、現在はサプリメントにて経過観察中)
ご来院時の状況
飼い主様からは「下顎の前歯あたりに塊のようなものがある」とのことでご来院いただきました。触っても痛がる様子はなく、食欲や元気にもまったく問題がないということで、全体としては良好な健康状態に見えていました。
しかし、口腔内の腫瘤は見た目だけでは良性か悪性かの判断が難しいため、精密検査を行うことにしました。
検査結果と治療方針
各種検査の結果、悪性黒色腫(メラノーマ)と診断されました。
この腫瘍は口腔内に発生するがんの中でも再発率・転移率が高いことで知られ、早期発見・外科的切除が非常に重要とされています。
さらに、歯石の付着と、それに伴う中等度の歯周炎も認められたため、以下の2点を柱とした治療方針としました。
<治療方針>
・歯石除去による口腔内環境の整備
・悪性腫瘍を含む下顎骨の部分切除
処置の流れ
処置は、全身麻酔の安全性を確認したうえで、以下の手順で進めました。
①術前検査(血液検査・レントゲン)
高齢ということもあり、全身麻酔の安全性を確認するために血液検査と肺への転移を確認するレントゲン検査を実施。異常がないことを確認し、手術に進みました。
②歯石除去(スケーリング・ポリッシング)
口腔内を清潔に保つ目的で、まず超音波スケーラーを使用して歯石を除去。その後、2種類の研磨剤で歯の表面を磨き、細菌の再付着を抑えます。
③下顎骨の部分切除
悪性黒色腫は再発のリスクが高いため、腫瘍だけでなく周囲の正常な組織を含めて広めに切除します。専用のカッターで下顎骨を切除し、切除面はなめらかに整形しました。
④縫合と整容処置
骨を整形したあとは、切除部位の歯茎を丁寧に縫合し、見た目の違和感がなるべく出ないように整えます。
術後の経過と現在の状態
術後も強い痛みを訴える様子はなく、翌日にはしっかりとごはんを食べ、元気に過ごしてくれました。
その後も局所の再発は見られず、良好な経過をたどっていましたが、1年後の検査で肺への転移が確認されました。現在は、サプリメントを用いた体調管理を行いながら、慎重に経過を見守っています。
見逃されやすい口腔内腫瘍|「異変に気づくこと」が第一歩
見た目には歯茎の「できもの」程度に見えても、実は悪性腫瘍だった――そんなケースは決して珍しくありません。特に「メラノーマ」は進行が早く、再発や転移のリスクも高いため、できるだけ早く異変に気づき、治療に取りかかることがとても重要です。
さらに、歯石がたまっていたり、歯ぐきに炎症があると、気づかないうちにお口のトラブルが進行してしまうこともあります。だからこそ、日ごろのケアに加えて、定期的に歯科検診を受けることが大切です。
歯石や歯ぐきの赤みなど、ほんの小さな変化でも、獣医師が早い段階で異常に気づき、対応できることがあります。おうちでのケアとあわせて、動物病院でのお口のチェックもぜひ習慣にしていきましょう。
まとめ|高齢でも安心して処置を受けられるように
「年齢的に、もう麻酔は難しいのでは…」と心配される飼い主様もいらっしゃるかと思いますが、かず動物病院では、処置にあたってしっかりと事前検査を行い、安全性を確認したうえで対応しています。その子の体の状態に合わせて、無理のない方法を一緒に考えていきますので、どうぞご安心ください。
「これくらいで相談していいのかな…」と思うような些細なことでも大丈夫です。お口の中の小さな変化が、大きな病気のサインにつながることもあります。気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。
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