2025.06.26 【症例紹介】12歳6カ月ジャックラッセルテリアの歯石除去・抜歯処置|高齢犬のお口トラブル、見過ごさないで!
「歯が折れている気がする」「歯がぐらついているかも」——そんな口内の異変は、見た目以上に深刻な病変が隠れていることもあります。
今回は、上下の前歯が折れたという主訴で来院されたジャックラッセルテリアの症例をご紹介します。
■目次
1.症例情報(概要)
2.ご相談内容とご来院時の状態
3.検査結果と治療方針
4.処置の流れ
5.術後の様子と経過
6.折れた歯や歯のぐらつきを放置するリスクとは?
7.まとめ
症例情報(概要)
・種類:犬(ジャックラッセルテリア)
・年齢:12歳6カ月
・性別:避妊メス
・体重:6.72kg
・主訴:上下前歯の破折
・病名:中等度歯周炎、前歯の破折
・処置内容:全身麻酔下でのスケーリング・抜歯・歯肉粘膜フラップ術
・術後経過:処置部位の治癒良好/口腔内の状態安定
ご相談内容とご来院時の状態
「上下の前歯が折れているかもしれない」とのことで、診察にお越しいただきました。
痛がる様子はみられませんでしたが、診察では、上下の前歯が1本ずつ折れているのが確認できました。また、全体的に中等度の歯石がついており、奥歯にはぐらつきも見られる状態でした。
検査結果と治療方針
検査の結果、折れていた前歯はどちらも根元まで達する破折で、自然に治ることは難しい状態でした。ぐらついていた右下の奥歯も、抜歯が必要と判断されました。
また、全体的に歯石の付着や歯ぐきの炎症(歯周炎)が進んでおり、歯石除去(スケーリング)もあわせて行うことになりました。
<治療方針>
・超音波スケーラーによる歯石除去
・折れていた前歯および奥歯の抜歯
・抜歯部の歯肉粘膜フラップ術による縫合
・歯周ポケットへの歯科用抗菌剤の塗布
処置の流れ
まずは全身麻酔を安全に行うため、事前に血液検査を行い、体調に問題がないことを確認しました。
そのうえで、以下の手順で処置を進めました。
①歯石除去(スケーリング)
超音波の機械を使って、歯の表面に付着していた中等度の歯石を丁寧に取り除きます。
②歯の研磨(ポリッシング)
歯石を取ったあとは、歯の表面がザラザラしやすくなるため、2種類の研磨剤を使ってなめらかに磨き、汚れが再びつきにくい状態に仕上げます。
③抜歯と骨の処置
今回抜歯が必要だったのは、根元まで折れていた上下の前歯2本と、ぐらつきがあった右下の奥歯1本です。まず歯ぐきを剥がし、歯の根元を囲む骨を一部削って歯を取り出します。折れた部分が残らないよう、慎重に確認しながら作業を行いました。
④歯ぐきの縫合(歯肉粘膜フラップ術)
歯を抜いたあとは、削った骨の表面をきれいに整え、薬を詰めたうえで、先に剥がしていた歯ぐきを丁寧に縫い合わせます。
⑤抗生剤の塗布
最後に、すべての歯周ポケット(歯と歯ぐきのすき間)に、歯科用の抗生剤軟膏を塗布し、処置後の炎症や感染を防ぐ仕上げを行います。
術後の様子と経過
処置後の麻酔からの覚醒も順調で、術後の経過も良好です。
この子はもともと痛がったり、違和感を見せたりする様子がなく、お口の中のトラブルにも気づきにくい状態でしたが、検査によって隠れていた問題が見つかりました。
飼い主様が「いつもと違うかも」と気づいて早めにご相談くださったことで、大きなトラブルになる前に処置を行うことができました。
現在は、定期的な歯科検診を受けながら、ご自宅でのデンタルケアにも取り組んでいただいています。
折れた歯や歯のぐらつきを放置するリスクとは?
歯が折れていても、見た目には気づきにくいことがあります。また、歯の根元までヒビが入っていたり、深いところで折れていたりするケースも少なくありません。
そのままにしておくと、傷口から細菌が入り込み、歯ぐきや歯の根元に炎症が広がってしまうことがあります。進行すると、歯周病や膿がたまる「根尖膿瘍(こんせんのうよう)」を引き起こしたり、さらに顎の骨にまで炎症が及ぶおそれもあるため注意が必要です。
また、折れた歯の内部にある神経が露出していると、強い痛みを感じることもあります。ただし、犬は痛みを隠してしまうことがあるため「ごはんを普通に食べている=大丈夫」とは限らない点にも気をつけましょう。
・前歯が折れている
・奥歯がグラグラしている
・口のニオイが気になる
このような変化に気づいたときは、できるだけ早めに動物病院へ相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、折れてしまった前歯と、ぐらつきのあった奥歯の処置を行った症例をご紹介しました。見た目には分かりづらい口内のトラブルも、適切な検査によって早期に発見し、処置することで、より大きな問題を防ぐことができます。
特にシニア期の犬では、加齢や歯周病の影響で歯や歯ぐきが弱くなっており、ちょっとした衝撃で歯が折れてしまうこともあります。「気になるけれど様子を見ようかな…」と悩まれたときこそ、一度動物病院でのチェックをおすすめします。
かず動物病院では、高齢の犬にも安全に配慮した歯科処置を実施していますので、どうぞ安心してご相談ください。
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